束縛






「あたしの事、どう思ってる?」

閨で、行為の後。

「何いってるんだ」

何も答えず、着物を直す。

「答えてよ」

さっきより幾分かきつめに言った。

「わかってんだろ?」

分からないから聞いてるんじゃない。

「答えて」

こんなしつこくしたこと無かったはずよ。

「また、帰ってきたら教えてやるさ」

そうやってはぐらかす。

、これやるよ」

使われた布団の上に赤い櫛が置かれた。

「綺麗……」

初めての贈り物。

「町で、お前に良さそうだと思って」

でも。

「勿体無いよ、あたしには」

欲しくない。

「んなことねえ。とっとけ」

受け取れない。

「じゃあ、俺帰るわ」

行かないで。

「もう少しいない?」

しなだれかかる。

文次郎は驚いたように目を開いた。

両肩に置かれたあたしの手に優しく自分の手を重ねた。

それから今まで見たことないほどに穏やかに笑った。

黙って、彼は立ち上がった。

襖を開いて、出て、隙間もなく、閉じた。

あたしは止める事もせずに、声も出さずに、

泣いていた。










もう逢えない。




















「ここにさんという方はおられますか」

「はい、はあたしですけど?」

「潮江文次郎から伝言を預かりました」

「…」













本気で好きだった。
死んでも放してやらねえからな。





















旅装束の、美しい黒髪の男は足早に去っていった。



ああ、もう遅いよ。

どうしてあのときにちゃんと言ってくれなかったの?

もうあの人を食ったような笑顔もそのときにのぞく白い歯も

乱暴に結われた髪の毛も逞しい胸板も意外に細い手首も

もう二度と見れないのに。

いまさら束縛されたって…辛いだけじゃない。

あの人は、そんなことわかっていたはず。

なのに、なのに。

あたしはその場に泣き崩れた。

大通りを行き交う人々が、恥も外聞もなく大声でなくあたしを見ていく。

ああ、愛してる。愛してる。好き。

好きで、好きで、たまらないの。

ありがとう。好きだといってくれて。

袖の中の赤い櫛を握った。

そして、あたしはあなたのものです。



























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