「兄上、見つけた」
「…はい?」
さまよえる恋の弾丸☆
利吉の袖をひいたのは、十歳くらいの少女だった。
大きな目は、怪訝そうな利吉の目を、睨むようにじっと見据えていた。
往来の真中で、少女が青年の袖を掴んだまま微動だにしない様は、他人が見ればいささか奇妙な光景だった。
通りを行き交う人々は二人をじろじろと眺めては追い越していく。
利吉はぽりぽりと頭を掻いて、少女に人の良さそうな笑顔を向けた。
「あー…、私はね、君の兄上じゃ…」
「兄上だ」
利吉の言葉をさえぎって少女はきっぱり言い切った。
利吉はついつい苦笑を浮かべる。
「えー、と。だから、人違いで…」
「兄上だ」
さらに大き目の声で繰り返す。
「じゃなくて…」
「兄上だ」
この進展の無い押し問答にいい加減飽きた利吉は、溜息をつく。
それからややきつめに少女に
「だーかーら…、私は君の…」
ぴたりと利吉の口が止まった。
少女は大きな目を潤ませて、今にも泣きそうになっていた。
と、思った瞬間。
「う、うぇえええええええええええん!」
少女は大きな声をあげて泣き出した。
その泣き声に比例するように群集のざわめきは広がる。
利吉はうろたえた。
「まあ、なんなんでしょ、子供を泣かして…」
「なんだなんだ、お、色男が!そんな子供まで泣かしてんのか?」
「やーねえ、こんな大通りで…」
今までも視線を感じていたのに、さらに多くの視線がかなり冷たく自分たちを見ている…。
利吉は、その状況に耐え切れず、少女を抱えて裏路地へと逃げ込んでいった。
「じゃあ、あんたが兄上じゃないってことはわかったわ」
路地裏にて一刻近くの説得の末に、やっと少女は納得した。
「納得してくれたらいいんだ。それじゃ…」
「待ってよ!」
去りかけたのを振り返れば、少女がまたもや小袖を掴んでいる。
「わかったから、兄上を探すの、手伝って」
「………」
「あたしの名前はよ」
と名乗る少女はにっこりと可愛らしく微笑んだ。
その笑顔とは対照的に、手は小袖を掴んで離そうとはしない。
笑顔の裏に鬼がいる!利吉は一瞬そう思った。
「ねっ、いいでしょ!?」
「あのね…、突然他人を捕まえて人探しを手伝えって言わ…」
利吉は、自分の血の気が引いていくのを感じた。
少女の瞳には、またもや大粒の涙が溜まっていたのだ。
「わかった!君の兄上を探すの手伝うから!だから…勘弁してくれ!」
「そう?ありがとう」
途端、少女はけろりと泣き止んで愛らしい笑顔を浮かべた。
え?
呆然する利吉には目もくれず、少女は大通りの方へと駆け戻る。
「ほらー!早く行こうよー!探してくれるんでしょう!?」
は元気良く大通りへ走っていった。
利吉は地面に膝をついてがっくりと項垂れる。
「最近の子供って………」
「利吉ー!!次はこっちー!」
「え…、そこ遊郭…っ!」
「ここ高くて見れないー、利吉見てー」
「私だって見れないよ…、ここは…」
「じゃ、あたしはあっちで、利吉はあっちね」
「ちょっと待てー!絶対迷うから駄目ー!」
はああ〜。
利吉は茶店で腰掛けるとため息をついた。
結局、の兄は見つからず、一休みをすることにした。
は横でお団子を頬張りながら仕事帰りの人波を見つづけていた。
ふいに見ると、西の空が紅く染まり始めている。
昼からずっと歩きっぱなしだったわけだ。
自分よりも歩幅が狭く、体も小さい子が、文句一つ言わずに兄を探す為に
歩きつづけたなんて、健気なことではないか。
「君のお兄さん、一体どこにいるのかな…」
ぴたりと、のお団子を食べる手が止まる。
口のものを喉に流し込んで
「ごめんね」
「え?」
利吉は不意に聞き返す。
「兄上なんてほんとはいないの」
「……?」
「死んだの。戦で」
「……え…」
は、皿に串を置いて伏目がちに笑った。
「利吉が、兄上にそっくりだったの…。だから…利吉が、兄上みたいで」
そんな………。
兄を亡くしていたのか…。
物憂げでな微笑。
この歳でこんな表情を浮かべるなんて…。
兄への愛情が、この少女をここまで突き動かしていたのか…。
利吉は、この小さな娘が、たまらなく愛しいと思った。
「〜」
「あっ、兄上!」
「………はい?」
見れば、年のころ十三から十四の少年が息を切らしてこちらへ走ってくる。
は少年に大きく手を振った。
利吉が状況のつかめぬまま呆然としていると、少年は自分たちの前に立って
「!駄目じゃないか、一人で行ったら!だからはぐれちゃうんだぞ!」
「ごめんね、兄上」
「すいません、が御迷惑おかけしましたよね」
「いや、はァ・・・その」
「さ!母さんたちも心配してるぞ!」
「うん、わかった」
ちょっと待った。
兄上って、兄上って、え?
ってことは、さっきの話は…ウソ?
少年は、向こうからやってきた男女の方に向かって駆けて行った。
も縁台から降りて、その後に続く。
と、二、三歩行った所で、一度振り返った。
それから、にこりと笑って言う。
「あたし、嘘ついてたけどね、利吉と一緒にいたかったからってのは本当なの」
「は?」
「大好き」
が走り去って姿が見えなくなるまで、利吉は放心状態であった。
少女に告白されたのは初めてだ…。
その一方で五年経てば、二十三と十五だ、そんなことを考えている自分に、利吉は苦笑した。
5年後の奴らの明日はどっちだ!?
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