保証人
『翼?わりい、今日法事でさ、遊びにいけねえ』
携帯をポケットに突っ込んで翼は立ち上がった。
休日の駅前は若者と家族連れでごった返していて、なんかたまにカップルとかもいたり。
あー、くそ。
大体何おまえら。ふっざけた化粧してさ。
眉毛そりすぎ化粧厚すぎ。面の皮見えないよ。
ったく、ほんとになんなんだよマサキのやつ。ドタキャン?
ああ、今流行りのドタキャンだね?この翼様が人のために時間を割いてやったって言うのに。
「お嬢ちゃん、どこいくのー?良かったら俺たちと遊ばない?」
「るせえんだよタコ。女の心配する前にその顔の心配しとけっつか僕男なんだよねv」
ちっ、これで3人目だ。
いくら僕がその辺の女の何倍も可愛いからってここまでまちがえられたら迷惑なんだよね。
駅前通りをイラついているだろう面で闊歩していた。
すると、街道の一角に小さな人だかりができていた。
中学生くらいの女の子たちや大学生とかがその中心を見ていた。
何だろう、と翼は自分もそちらへ寄ってみた。
彼らが見ているのが何かはわからなかったが、それでも耳に入ってくるギターの音と歌声で、
ああ、ストリートミュージシャンか。
そういえば今日は休日だから学生とかも結構道端に座り込んでギター鳴らしたりしてる。
ジャン、と歌声が途切れ、ギター特有の音も揃って終わった。
パチパチと拍手が鳴る。
周りの奴らがぞろぞろとまた自分たちの目的地に向かって歩き出した。
そして残ったのは僕とその、ギターを弾いて唄っていた奴だけになった。
ベージュのニットの帽子を被っているそいつは、僕に気付いたらしく、にっ、と笑った。
「お姉ちゃん、なんかリクエスト?」
むか。
「あんたね、僕これでもオトコノコなんだよねぇ」
「マジで?うわおぅ、ちょー可愛い!俺が彼女にしたいくらい!」
「ははは、あんた変態じゃないの、男が男に向かって可愛いなんてさ?」
「よく言われるんだよねぇ、趣味が変態だって!」
あははははは!!
大声で笑い飛ばしたそいつに何故か不思議と腹が立たなかった。
でも一応、むっとしたポーズをとっていると、そいつが言った。
「で、お兄ちゃんはなんかリクエスト?」
翼はちら、とギターケースの中にあるその男の横にある稼ぎを見た。
500円とか札がいっぱい。
へー、そんなにうまいわけ?
「僕さっきの演奏ろくに聞けてないんだよね。何でもいいから歌ってよ」
「オーケー」
自信に満ちた笑みを浮かべそいつはギター構えて、弾き始めた。
『今日は朝から曇り 低い空
こんな日には恋人たちさえも
ちょっとしたことから刺々しくなる
戸惑う可愛いしぐさに
僕は飲み込まれていきそうなんだ
上目遣いの怒った目にも
叶わない 叶わない欲望を抱いて
ずっと想ってた 愛してた
飽き足りない日常と君を
けど君が待っててくれるなら
僕はこの世界からも飛び出せる
君が許してくれるなら
誰を敵にしても怖くない
君が呼んでくれるなら
どんな危険にも飛び込める
君が保証してくれるなら
どんな事だってできるのさ』
そいつの良く通るアルトの歌声に翼は聞き惚れていた。
ギターの弦を操る長い指が最後の音を引くと同時に、拍手がなった。
知らぬ間に、またギャラリーが集まってきていた。
数人がそいつの前に置いたギターのケースに放り込んで行った。
そいつは一人一人に「ありがとう」「ありがとう」と言って、笑顔を向けた。
客があらかた退いて、翼とそいつが2人になる。
その男はじゃらじゃらと音を立ててギターケースの中にあった小銭や札をポケットに流し込み、
ギターを空になったケースの中にしまいこんだ。
「そんなとこに突っ立ってないで座ったら?」
翼に自分の隣を示した。
翼は数段の段差に腰を下ろした。
「どう、俺の演奏は?」
「まあまあじゃない?」
「つれなーい!」
あははははは!!またまた大声で笑う隣の男。
「っていうかさ」
「あんた、女じゃない?」
「ばれた?」
にこ。
そいつはさっきまでとはぜんぜん違う、「オンナノコ」の表情をして見せた。
ニットの帽子を取ると腰まで届く長い髪が流れ出た。
「あーあー、自信あったのになあ」
「何、男装趣味なわけ?」
「そんなとこにしといて☆っていうかさ、何で分かったの?」
「歌声が男じゃない、研究不足だね」
ふうん、声が低いだけじゃダメ、か。
ふむふむと1人納得したようにそいつは頷いていた。
それから、今までは気付かれなかったのになとも言った。
気付くと僕はそいつのことを一日聞いていた。
そいつが僕と同じ中3である事。
同い年で女の癖に身長は165もあること。(くそっ、悔しい)
ギターは小学生のときからやっている事。
ストリートを始めたのは中学校にあがってからだという事。
男のカッコをし始めたのは夜に変な男に絡まれないようにする為だという事。
そんな心配はなくなったが、その代わり女の子のファンが増えてきたこと。
1ヶ月ほど前にそんな子達の1人に告白されて困った事。
そして、将来はプロになりたいという事。
「あ、もう6時過ぎだよ」
「まじで?やっば、早く帰らないと」
俺は立ち上がった。
それから、ふと思って口を開いた。
「ねえ、お前、名前何ていうの?」
きょとんとした顔をして、しかしすぐにそいつは答えた。
「。あんたは?」
「俺は翼。じゃ、またな」
「またくんの?」
「不満なの?この椎名翼さまが来てやるっていうのに」
「あっはははは!すんごい自信!ううん、嬉しい。またね、翼!」
「ああ」
その夜、翼にマサキからの謝罪の電話があったが
数日後、その事についてマサキが
「ドタキャンしたのに気持ち悪いほど機嫌がよかった・・・」
と語ったらしい。
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