女とケモノ
ポツン…ポツン…
「ン…?」
規則的に顔に当る冷たい感触に目が覚めた。
ぼんやりとした頭で、虚ろにあたりを見まわすと、
そこは意識を失ったのと同じ、暗い廃寺の中だった。
外では相変わらずザンザンと激しく、雨が音を立てている。
死んで…なかったのか…。
ぼんやりとした頭でなんとなく思った。
のそのそと体を起こすと、腹部に鈍い痛みを感じた。
思わずうめいて、傷口に手を当てた。
しかし、そこにあったのは裂けた肉の感触ではなく、柔らかな包帯の手触りだった。
わずかに血がにじんでいるが、傷口は完璧に縫合され、今はもう止まっているようだった。
他の小さな全身の傷も丁寧に手当てしてある。
一体誰が?
そう思って振り向くと、さっきの女が、隣で横になって寝息を立てていた。
その横には血のついた懐紙や手拭や、どうみても手術用の道具が並べられていた。
まさか、この女が?
思い出してみれば、確かにこいつの言動は落ち着いていたが、まさか。
そのとき、女の鼻の頭に、ポツンと水滴が落ちた。
「う…ん」
女はうっすらと目を開けると、ぼんやりと俺に焦点を合わせた。
それから二度三度目をこすると、ごそごそと身を起こし始めた。
「…傷は?」
女は開口一番そう言った。
「……問題ねえ」
「多分、今はまだ麻酔が効いてるから。そろそろ切れる頃だけど」
痛み止めを飲んでおいたほうがいい、と言って、女は自分の荷物を開けた。
その中にも、医学に関係しているのであろう、小さな本や薬の包が詰め込まれている。
その中から細い指で一つの白い包を選んで、俺に渡してきた。
「飲んで。雨水で良かったら、すぐ汲んで来るから」
「…おう」
女は竹筒を手に、寺の外に出た。
引き戸を開けると、さっきと変わらぬザンザンという雨音が寺の中に飛び込んできた。
女は髪を少し濡らして、すぐに帰ってきた。
また雨の音が遠くなる。
水を俺に渡すと、女は道具をてきぱきと片付け始める。
俺は薬の包を開けると、指の先で粉を掬い取り、舌の先につけた。
「やっぱり、そういうことする職の人なの?」
横目で睨むが、女はもう怯まない。
「あたしの知り合いにもいたの。大丈夫よ。毒なんて…もう入ってないから」
「…もう?」
女はわずかに瞼を伏せた。
「…うん。もう、ね」
舌先に異常はなかった。
俺は、黙って薬を飲み干した。
…美しいケモノ ケモノと兎…
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