孤高のケモノ





あいつは今更何を言っているのだ!
「ひどい」だと?今更そんな事を言って後悔しだしてどうしようというのだ!
そんな感情など必要ない、邪魔なのだ!
己の感情を全て捨てて、仕えるものの手足となる。
仕えるものの為なら命もいとわず、ときには捨て身で、血に塗れながらも、
影の世界を暗躍して生きる、そんな道を選んだのは他の誰でもない。
俺たち自身ではないか。
中途で揺らぐような決心なら、最初からしなければよかったのだ。
やめる機会ならいくらでもあったはずだ。学園を辞めてもよかった。
卒業した後もカタギの職につく事だってできた。おまえくらいなら抜け忍になっても
生き延びられただろう。なのに、それが何てザマだ!!
半端な覚悟で忍なぞできるか、そういったのは誰だ?お前だ!
私たちは学んだのだ。たとえ昔の友でも切り捨てるときがくるやも知れぬと。
そのときには迷わず刀を振るえと。
私の決意は揺るがない。誰であろうが、目的の為なら容赦なく切り捨てると。
それが友人であろうと己であろうと誰であろうと、迷わず、切り捨てるのだ!


…クソッ…イライラする。
らしくない。だが、抑えようがないほどいらだっている。
自覚している分、まだましだろうか。
…………おちつけ。
何をそんなに苛立つ必要がある。
文次郎が殺される事がそんなに厭か。
そんなことがあってたまるか。私は忍びとして生きるために全てを捨てたんだ。
こんな執着は不毛だ。
こんな風に気を荒立てて…まるで、毛を逆立てて牙を剥く獣のようではないか。
獣がうなり、吠え立てるのはなぜか考える。
威嚇するためだ。(一体何を?)
獣が牙を見せ、爪を研ぎ澄ますのはなぜか考える。
怯えているからだ。(一体何に?)
生に執着し、泥に塗れ、もがき、足掻きながら敵に喰らいついていくその様を
想像し、それが自分かと思うといささかゾッとした。

「…くそっ、馬鹿馬鹿しい」

私は怯えてなどいない。
脅かされるものなど何一つないはずだ。
友も、自分も。私は、何もかも捨てたのだから。








私は自室の襖を開けようとした。
そのとき、後ろからなにやら慌しい足音が近付いてきた。
振り向くと、最近入ったばかりの新米の忍が当惑した様子で走り寄って来る。

「どうした、騒がしいぞ」

耳を澄ますと、階下や外からも少々ざわめきが聞こえる。

(あいつが脱走したのだろうか)

一瞬そう考えるが、あの男が逃げ出したのならこの程度の騒ぎで済む筈もあるまい、
と考えを改める。
第一、それならばこの新米が言いにくそうにしている暇はないだろう。

「どうした、早く言え」
「そ、それが…」

目の前の忍が言うよりも早く、階下から伝令の大声が響き渡ってきた。

が戻ってきたぞ――――――――!」













…ケモノの横顔 ケモノの傷痕…






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